統計学を学ぶ上で、非常に重要なのは実践です。
教科書には、それぞれの手法についての解説は載っていますが、それぞれの手法をどのように組み合わせて、どのように使っていくのかについてはあまり載っていません。
故に、自分で学習した内容を実際に、見様見真似で使ってみて、試行錯誤を繰り返す方法でしか統計リストを向上させる手段がないというのが実情なのです。
という事で、当サイトでは様々な事例を対象に実際にどのようにしてデータを分析すべきなのかを紹介していきます。
今回はZOZOTOWNの財務分析です。
創業者の前澤友作氏がZOZOを退任したのが今年の9月12日。
まだ記憶に新しい出来事です。
ちまたでは、うまく営業出来なくなったから売り払ったという話でもちきりですが、実際のところどうなのでしょうか。
ZOZOスーツがさっぱりだの、ブランドが離れていっているだの、送料をあれこれ変えるだの、直近ではあまりいい噂を聞かなかったことは事実です。
しかし、これらはあくまで定性的な情報です。
物事を分析する上では、定性、定量いずれも押さえていく必要があります。
という事で今回は2009年から2019年にかけてのZOZOの決算という定量面を分析し、実際に落ち目であったのか見ていこうと思います。
ZOZOってどんな会社?
ZOZOもすごいが社長もすごい
ZOZOTOWNは衣服を対象としたオンライン通販サービスを主な業態としている会社です。
著名ブランドからお手頃な価格帯まで幅広いブランドを取り揃え、服はネットでは売れないという常識を打ち破った革新的な企業と言われてきました。
ZOZO SUIT
ツケ払い
送料無料
等の常識では考えられない攻めの経営が目立ち、更に社長の前澤友作氏の
・剛力彩芽との交際
・バスキアの絵を123億円で落札
・私月に行きます宣言
等々強烈なキャラクターもよく知られていました。
時価総額は最高1兆円超え
そんな攻めの経営は市場でも高く評価されていました。
時価総額は最高で1兆円を超えたときもあります。
しかしながら、そんな攻めの経営が裏目に出たのか、空振りが多く、売りに売られ2019年10月現在7769億円まで下がっています。
十分な金額に見えますが、重要なのは金額自体ではなく、下降傾向にあるという事実です。
さて、それではこの時価総額の下落が示す通り、ZOZOの経営はうまくいっていないのでしょうか。
今回はこの経営状態にフォーカスして分析していきます。
ZOZOの財務を分析しよう
分析目的
経営がうまくいっているのかを見るために、以下の2つの視点で見ていきます。
・利益は出ているか、上がっているか
・負債が多すぎないか?
つまり、安定していて、どんどん拡大していっているかを見ていきます。
これらの要因を示すのは
・拡大しているか?:売上、営業/純利益、
・安定しているか?:自己資本比率、流動比率、フリーキャッシュフロー
になります。これらを順次分析していきます。
データ元:ZOZOTOWN
売上、営業利益、純利益
まず売上の推移を見ていきましょう。
年間の合計売上の推移は以下になります。
拡大の一途をたどっております。特に2016年以降は傾きが急激に変わっています。
こういった変化点からどのような出来事があったのかを探り当てはめると分析の精度は更に増します(ニュース等の定性情報はここで使うのです)。
今回は定量的な分析のみに終始します。気になる方はどんなニュースがあったのか調べてみて下さい。
さてこのグラフは年間の合計ですが、次に四半期の平均と最大/最小のエラーバーで分析してみましょう。
狙いはばらつきの確認です。
例えばスキー場など冬場にピークを迎えるような業態だと、10~12月の売上や利益が急上昇してエラーバーがいびつになるはずです。
そして季節要因が強い業態の場合、異常気象等が生じると売上が激減する可能性があります。
では見てみます。
2016年からばらつきが大きくなっているように見えます。
ですが、ばらつきは平均値に引っ張られる事も多いため、平均を除した変動係数で評価してみましょう。
これだとよく分からないので視点を変えましょう。
ドットプロットで2015年前後の変動係数を見てみます。
ドットプロットは各値を集団ごとに集めて比較するものです。
10点前後の少ないN数の場合はボックスプロットよりも有効的に分布の比較が出来ます。
こうしてみると、一つ(2010年)が突発的に高い事を除けば2015年以前より2016年以降の方が売上の変動係数が大きくなっているように見えます。
つまり2016年以降売上が不安定になっていったと言えます。
次に売上、営業利益、純利益を並べてグラフにしてみましょう。
2016年からの売上の上昇に比べて、営業利益と純利益は置いて行かれている印象を受けます。
なので営業/純利益を売上で割った、営業利益率と純利益率に注目してみます。
こうしてみると、2014年で1段各利益率は上昇していますが、直近の2019年はガクンと落ちています。
数字的にはZOZOの利益率は極めて高いです。
営業利益率は1~5%あれば優秀と言われる中で、20%以上を常に確保しています。
純利益率は1~3%が平均と言われる中で、10%以上を常に確保しています。
つまりビジネスモデルとしては極めて優秀であるという事が分かります。
しかしその利益率も2019年はいまだ高い数字ながらも、下降傾向に入りました。
これからもしかしたらもっと下がるかもしれないと思うと、やはり落ち目なのかも疑われても仕方がないかもしれません。
借金と現金を見ていこう!
借金と現金は企業の体力を表します。
いくら儲けていても、借金だらけだったり、現金が枯渇していると会社は回らなくなります。
ただ、借金が無さすぎるというのも消極的過ぎます。
会社は借金をして、大きなレバレッジをかけることで大きな売上をあげる事が出来ます。借金が無さすぎるというのもあまり良くないのです。
これら借金や現金の状態を表す代表的な指標が
・自己資本比率:総資産に対する純資産の比
・流動比率:1年以内に返さないといけない借金(流動負債)に対して1年以内に現金化出来る資産流動資産が何倍あるか
・フリーキャッシュフロー:営業で得た現金から投資する現金を引いた自由に使える現金
になります。
まずは総資産と自己資本比率から見ていきます。
総資産は年々上昇の傾向にあります。一方2018年までは自己資本比率は一定を保っています。
これは純資産の増加に伴い、借金の量も増やしている事を意味しています。
ちなみに自己資本率は40%以上あれば上出来と言われており、それを考慮すると50~60%というのはかなり安定している部類に入ります。
そして純資産の増加に合わせて借金をしているという事は、安全性を考慮しつつも攻める力を高めているというかなり巧みな資金調整であると言えます。
正直、かなりちゃんとしている言えます。
ですがそれも2018年まで。
2019年にはこの自己資本比率が激減して20%台まで落ちてしまっています。
これは結構な危険水域です。
この大きな変化点も定性情報の確認ポイントになります。
次に流動比率を見てみましょう。
この流動比率はすぐに返さない借金が、余裕をもって返せるかを示したものです。
1倍だと借金を返したら今の資産はなくなるという事なので、1倍をうろうろするのは危ないわけです。
そういう点で見ると、気になる点は3つ
・基本的には2倍をキープ(安全域)
・2016年はかなりばらついている
・2019年は1倍スレスレの危険域
2018年までは、かなり安定した状態だったと言えます。
しかしながらこちらも2019年には激減して危険水域に突入しています。
また2016年にかなり大きなばらつきが見えます。振り返ると自己資本比率もそうでした。
2016年に売上も急上昇している事から、大きな借金をしてレバレッジを掛けたことでそれが功を奏して売り上げの上昇につながったのかもしれません。
ですが、2019年は同じことを狙ったかもしれませんが、うまくいっていません。
こういったシナリオを立てると、定性情報をかなり絞り込めると思います。
最後にキャッシュフロー(CF)を見ていきましょう。
フリーCFも2019年に減少しています。そしてその理由も投資額ではなく営業CFの減少、つまり稼げなくなったことが起因しています。
またこのグラフを見るとZOZOの投資額というのは、稼ぎに対してはそれほど高くないように見えます。営業CF対投資比率を見てみましょう。
投資CFに対して営業CFの比になります。基本的に5倍をマークしており20%程度を投資に回すという方針だと見て取れますが、2018年から3倍程度と投資額が増加しています。
もしかしたらZOZOSUITの投資タイミングだったのかも?
分析結果
拡大性の観点では、
・年々拡大を続けている
・売上は徐々に不安定になっていっている
・利益率は高い水準ではあるが、直近(2019年)では下降傾向にある
安定性の観点では
・自己資本比率は50~60%になるようにコントロールされていた
・流動比率も2倍以上の高水準だった
・2019年にはこれらの水準が失われた
と2019年になって売上が落ちただけでなく、財務状況のバランスも失われてしまっています。
グラフで見ると転換期は2016年と2019年です。
このあたりのニュース、つまり定性情報を引っ張り出せば更に分析の精度を上げる事が出来るでしょう。
まとめ
今回はZOZOTOWNの財務状態を分析しました。
こうみてみると、やはり不調であることは明確であり、売り逃げしたと見なされても仕方がないような気がします。
ただここで重要なのは、ニュースや定性情報に振り回されるのではなく、定量情報を分析して、そこに定性情報を当てはめて冷静に分析するという姿勢です。
数字を分析するコツは、平均だけではなくばらつきにも着目するという点です。
ばらつきに目を向けれるようになると、統計リテラシーが一段レベルアップします。
もし気になる企業、分析対象に巡り合ったらグラフだけでも書いてみて下さい。
先入観とは異なる結果が得られるかもしれませんよ?
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