タグチメソッド(品質工学)というものをご存知でしょうか?
タグチメソッドとは、低コストかつ潜在的なクレームリスクを最小限にするための開発手法です。
その効果は絶大で、80年代の欧米の技術停滞の打破に一役買ったそうです。
そのような効果的な手法があるのなら、各企業の開発において常用されていそうなものです。しかしながら実態としては、あまり活用されていません。
それは、なぜか?
難しいからです。
タグチメソッドは、従来の開発方法と比較して考え方がかなり特殊であり、腑に落ちにくい代物となっています。
それ故に、結局従来の開発手法から抜け出せず、様々な企業はいまだ泥沼に嵌っているという訳です。
逆にいえば、このタグチメソッドを適用することが出来れば、競合に対して優位性を確保することができるとも言えます。
ということで今回はタグチメソッドにおいて、最も重要な考え方を紹介いたします。
不具合には注目しない
タグチメソッドでは、特定の不具合に注目しません。
「不具合に注目しないと、不具合を解決出来ないじゃないか」
という声が聞こえてきそうですが、実は一つの不具合にのみ注目すると非常にまずいのです。
ここからは例え話ですが、
あるドラム式洗濯機が床を振動させてうるさい、というクレームがあったとします。
この場合に従来型の開発手法であれば、床を振動させないアプローチをとります。
そこで対策として、洗濯機の足に緩衝材を入れたとします。
やれやれ、これで一安心・・・
とはなりません。
ほどなくして、洗濯機が左右に揺れて壁とぶつかって破損した、というクレームが来ました。
調査の結果緩衝材を入れたことで、支えが利かなくなり洗濯機が揺れることが判明しました。
これが不具合に注目した場合の弊害です。
一つのクレームに製品を対応させたことで、別のクレームが発生してしまったのです。
そしてその別のクレームにも対応したことで、更に別のクレームが発生する・・・
正にモグラたたきです。
地獄です。
このように不具合単品に注目し対応すると、クレームのるつぼに嵌ってしまいます。
故にタグチメソッドでは、不具合に注目しません。
不具合を生じさせている更に上位概念である、製品の機能に注目します。
製品の機能とは?
不具合は製品の機能が出発点となり、発生します。
先程の床の振動の場合は、
・床が振動する
↓
・洗濯機が振動している
↓
・脱水のために洗濯機が内部の洗濯物を回転させているから
このように、洗濯機は洗濯物を脱水させるという機能を満たす過程で、本体が振動してしまい、それが床を振動させてしまうという訳です。
この図、まだ空白が残っています。ここからこの空白を埋めていきます。
まず横方向です。
そもそも、洗濯機内のドラムが回転するためには、どういった入力が必要でしょうか。
そう、電力です。
洗濯機の機能とは、電力を入れることで、内部のドラムが回転し、脱水させるというものなのです。
次に縦軸です。
このドラム式洗濯機は、空の状態で回転させた場合は殆ど振動しないが、洗濯物を入れたときに床が振動するとします。
この場合原因は洗濯物を投入したことによる、重量の偏りが原因と考えられます。
この図に注目すると、重量の偏りによる問題は床の振動だけではないかもしれません。
洗濯機の振動、洗濯機や床からの騒音なども、同じ原因から起きうるクレームと考えられます。
ここで、横軸に注目しましょう。
そもそも電力を入力して、回転、脱水させるという機能が100%の効率で達成されていれば、床や洗濯機が振動するはずはないのです。
床や洗濯機の振動は、本来ドラムを回転させるためだけの電力が、別の部位に伝播するために発生しているのです。
故に床が振動しているときは、回転数や脱水効率が落ちているはずなのです。
エネルギー保存の法則が、この世では成り立つのですから。
つまり、どのような環境、状況においても、回転数や脱水効率が一定である洗濯機を作ることが出来れば、クレームが来ないということです。
一般的に言い換えると
『どのような状況においても、一定の入力に対して、出力のばらつきが少ない製品を作る』
ことがタグチメソッドのクレーム対策なのです。
このような視点を持つことで、回転という現象における思いもよらないクレームに対しても対応することが出来ます。
これが、タグチメソッドがモグラたたきを回避出来る理由なのです。
まとめ
この機能、考案することが実は非常に難しいのです。
的を射ているのかということも問題になりますし、それ以上に出力は加法性の確保や、正確な測定が出来ていないと、正しく分析出来ないからです。
故にこの機能性を見出すことは、その会社の財産になり、トップシークレット事項になるほどだと言います。
私も今まさに新しい製品を任されており、この機能性を考えている真っ最中ですが、やっぱり難しいですね。
アイデア出しは、一人ではなく、ブレインストーミングにて実施するのが吉でしょう。
しかし、この機能性が見いだせれば、それだけでも今までと違ったクレーム対応が取れるはずです。
ぜひ、みなさんも機能について、一度考えてみてください。
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