QC7つ道具の一つである管理図には、異常判定ルールというものがあります。
上方管理限界(UCL)と下方管理限界(LCL)から外れる以外にも、特定の傾向を示したら異常と判断しなさいというルールです。
しかしこのルール、JISで8つも決められています。
初見時の私の感想は、
「逆にこれをすべてクリアする状況ってなんだよ」
でした。ですがこれらのルールは、守らなくても良いよという説があります。
今回は、あまりに厳しい異常判定ルールのアンチテーゼとして、異常判定ルールを使わない選択肢を提示します。
今回参考文献としてはこちらを使っています。
動画でも紹介しています。
異常判定ルールとは?
JISで示された8つのルール
異常判定ルールは以下の8つで構成されています。
極端に外れたものだけでなく、特にルール7のようにあまりに中央により過ぎても異常であるとしています。
ここまでギチギチに縛られていると、逆に引っ掛からない状態が想像つきません。
過検出ではないかと勘繰ってしまいます。
事実IATFの本などでは、該当のルールは参考程度に用いた方が良いと書いてありますし、現場で使われていても、運用中にこれらの理由で是正処置を取っている所を見たこともありません。
本当は守らなくても良い?
今回取り上げた本では、更に突っ込んでこのように記述されています。
「3シグマルールが異常モデルを選ばないオムニバスな以上判定ルールであるのに対して、補助ルール(上記8モデル)は特定の異常モデルを想定した補助ルールである」
「検出力を高めるために3シグマルールに次補助ルールを併用することは第一種の過誤の確率αの増大を招く」
と否定的です。
第一種の過誤αの増大とは、本当は異常なしなのに、異常ありと誤判断する確率の事で、NGの基準を設けすぎると何でも異常になってしまうよという意味です。
大きく3つに分けられる
基本のルール1を除く7つのルールは、大きく3つのグループに分けることが出来ます。
1.シフト変化の異常(ルール2,5,6)
本来中央に平均があるはずなのに、片側に偏っている事から平均値がシフトしてしまっている可能性をしめしている異常です。
2.トレンド変化の異常(ルール3)
一定の規則性により、トレンドが出来てしまっている状態で、何か特異なことが起きている可能性があるとして異常としています。
3.交互に変化する異常(ルール4,7,8)
こちらも規則性があるために、何かしらの特異なことが起きている可能性があるとして異常としています。
この本では更に
シフト変化のルールの中では、ルール5の併用はまだ可能(でも使わなくても良い)
ルール3は、検出力に寄与しないのでルール1との併用は避ける
交互に変化するルール4,7,8は開発初期においてサンプリングに問題が無いかをチェックするときに活用する
と紹介しています。
以上の事から通常の量産時には併用できそうなのは、ルール5くらいであり、それも状況に合わせて選択すれば良く、必須では無いという事です。
それではこのルールは使えないのか?
このルール決めには意味が無いように見えてしまいますが、そうではありません。
使いどころが違うのです。
管理図をリアルタイムで使用する際は、基本的にルール1の3σ管理だけでOKです。
管理図はリアルタイム使用以外にも、履歴調査にも力を発揮します。
他のルールが活用されるときは、それは振り返って分析をするときです。
何か顧客からクレームが発生したとき、歩留や特定の不良の改善活動を行うときに、残り7つのルールの目線でこれまでの管理図データを振り返ると抜けなく分析することが可能になります。
一定のトレンドが発生(=ルール3)するタイミングが定期的に来ているので、機械を調査したら軸がブレているとか、一定のタイミングでシフトしているので調査したら材料の揮発タイミングに傾向があるとか、そのような見方をするのです。
このように、異常判定ルールは事後分析で活用することが、適切な使用方法であると言えるでしょう。
まとめ
異常判定のルールは、JISで示されていますが、どのように活用されるのかは記されていません。
海外から管理図が流れてきたときに、日本国内で
「こんなもの工程の状況に寄るから、一様に適用できない」
と反発があったためです。
この8つのルールを見た瞬間に、「これは現実的じゃないな」と察したあなたの感性は正しいです。
管理図のこのようなルールに従えという話に惑わされて、導入がされていない現場とかもあると思います。
そんな中もしあなたが、「このややこしいルールは管理時には適用しなくても良いですよ」と言えたら、おそらくあなたは高く評価され、管理図を現場に導入した人として市場価値も高まるはずです。
このルールはぜひ事後分析に積極的に活用してみて下さい。きっとより良く管理図を運用できるはずです。
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