以前標準偏差を導く過程で『分散』という代表値が出てきました。
一見この分散は標準偏差を導く過程で、ついでに現れる数字に見えますが、実は重要な性質を有しています。
それは分散の加法性です。
この性質は統計学の根幹を支える、とても重要な性質です。
これを知っておくと、”ばらつき”に関しての理解が深まります。
今回はそんな分散の加法性について解説していきます。
分散の加法性とは
加法性とは『足し算が出来る』性質のことです。
つまり、とても単純な性質であるということです。
分散においての加法性とは、
お互いに独立した集団を組み合わせた際のばらつきは、個々の集団の分散(=標準偏差の2乗)を足し合わせた数値になるというものです。
例えですが、平均値は同じ厚みの板をA社とB社でそれぞれ取り寄せて、重ねるとします。
この場合A社の標準偏差はσA、B社の標準偏差はσBとします。
この場合以下の式が成り立ちます。
$$V=σ_A^2+σ_B^2$$
このように、独立した集団のばらつきを組み合わせた場合、分散(=標準偏差の2乗)を足し合わせた結果になります。
注意してほしいのですが、標準偏差の足し算ではありません。
この分散の加法性から、いくつかのことが見えてきます。
組み合わせた際の”ばらつき”があらかじめ予想できる
私は今の会社で極小のビーズを扱っており、そのビーズの組み合わせで性能を開発したりしています。
ビーズ径などが重要だったりするのですが、あらかじめ標準偏差が分かっていると、この分散の加法性でビーズAとビーズBを組み合わせたら、どの程度の”ばらつき”になり得るか、計算で予想できます。
このように材料を組み合わせて何かを作る工程を有している業務(というか開発業務全般)では、この分散の加法性を活かす機会が非常に多くなります。
組み合わせるほど”ばらつき”は大きくなる
先ほどの式を見てもらうと分かる通り、材料を組み合わせると必ず”ばらつき”は大きくなります。
性能を出すために無暗に組み合わせを多くしたり、複雑にしすぎるとその品質(ばらつき)は設計段階で、極めて悪いものと確定してしまいます。
なので、製品を設計する段階で出来るだけ無駄を排した、シンプルな設計にすることがとても重要になるわけです。
開発者が性能だけに注目して、品質を無視すると高性能ではあるが低品質な製品が出来上がるのは、この辺りに端を発します。
このような製品が出来上がると、後々品質保証部や製造現場が苦労したりするわけです。
平均値は”ばらつき”が小さくなる
集団の平均値にも実は分散の加法性は当てはまります。そしてこの性質は極めてユニークです。
標準偏差σ、平均値の一つの集団を例にします。
平均値の式は
$$\overline{x}=\frac{1}{n}x_1+\frac{1}{n}x_2+\frac{1}{n}x_3…$$
です。x1,x2,x3はそれぞれ同じバラツキσをとります。
この場合平均値の分散は
$$V=(\frac{1}{n})^2\sigma^2+(\frac{1}{n})^2\sigma^2+(\frac{1}{n})^2\sigma^2…=(\frac{n}{n^2})\sigma^2=(\frac{1}{n})\sigma^2$$
↓
$$\sigma=(\frac{1}{\sqrt{n}})\sigma$$
となります。(Vはσの2乗なので平方根をとっています)
これを見ると、平均値の分散が1/√nだけ小さくなっています。
つまりnが大きくなるほど、平均値の”ばらつき”が小さくなっていくということです。
なんということでしょう。
組み合わせを多くすると品質は悪化しますが、性能は合わせこみやすくなるのです。
この性質を使って作られている製品があります。
それはなんと、ウイスキーです。
ウイスキーは同じ作り方をしても、樽毎、配置毎、工場ごとでアルコール度数も、風味も全く異なります。
そのような”ばらつき”の多い原酒から安定した味を提供出来るのは、ブレンダーと呼ばれる人たちが、味を見ながら原酒をブレンドして製品開発を行っているからです。
分散の加法性から考えますと、ブレンドを重ねることで、原酒単体の個性が薄まり、安定した味(平均値)を作り出すことが出来るということになります。
ちなみに、この辺りの難しさは朝ドラの『マッサン』で描かれています。
まとめ
今回紹介した分散の加法性。
この
・個々の”ばらつき”は大きくなる
・平均値の”ばらつき”は小さくなる
という性質は、開発者と現場&品質保証の仲を引き裂く要因になっているように私は思います。
開発者はとかく性能を追い求めがちであり、その上では材料を多種多様に組み合わせて調整していく方が、原理上(実際にも)簡単なのです。
対して 組み合わせを増やすと、組み合わせた製品の”ばらつき”そのものは増大し品質は不安定になります。
つまり開発者が性能を追い求めて、材料を合わせるほどに、潜在的にクレームを招きやすい製品となり、結局現場や品質保証が頭を抱えることになるという訳です。
開発者はこの分散の加法性を考慮したうえで、開発業務を進めるべきでしょう。
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